研究テーマ 1

 
 

生命の状態をプロファイルする;次世代プロテオミクス

研究の目的

研究の背景

 生体は細胞から成るが、その細胞を駆動しているのは細胞内生体高分子である。そのなかで、バイオナノマシンとして様々な役割を担っているのが蛋白質である。遺伝子にはこのバイオナノマシン(蛋白質)の設計図が書かれているが、設計図を調べるだけではシステムとしての細胞を理解することは難しい。本研究では、細胞内の蛋白質の量的、および、(プロセッシングや翻訳後修飾といった)質的な動態を、網羅的、かつ、俯瞰的に調べることで、細胞の究極のプロファイリングを行う。http://www.nikkan.jp/news/nkx0720091118aaac.html

 我が国では医療費の膨張が財政を圧迫し、現在では総GDPの10%近く、社会保障費の約3分の1を占めている。この比率は、今後、高齢者化が進むに従って益々増大することが必至である。また、高齢者化が進むのに伴い、高齢者のQOL(Quality Of Life)を考慮した社会規模での生活環境の変革がこれから必要となる。

 本課題では、早期、かつ、網羅的な健康診断技術を基盤とする、社会規模での在宅・未病(発病前の状態)での健康管理システムによる医療費の抜本的な大幅削減を目指す。本プロジェクトで開発する在宅、かつ、汎用の健康診断システムは、通院不要でオーダーメイドの健診による高齢者のQOLの高レベルでの維持を実現する。


課題実現へのアプローチ

 高性能(ハイスループット、高感度、高再現性)のマイクロプロテオミクスチップと、高精度の診断アルゴリズムの開発により、各家庭で簡単(手間なく、短時間で)に取得したプロテオミクスのデータをネットワークで解析センターに送り、スーパーコンピューターサーバーにより処理することで高効率(際限なく多くの種類の疾病の診断が1回の検査で行える)かつ高精度の診断を得て、さらに、その結果を各人の電子カルテに反映することで必要な処置を各主治医が施すというシステムを構築する。

 生体のプロファイリング(健診)法としてはジェノミクスやメタボロミクスも挙げられるが、実際に生体システムを駆動しているタンパク質の量と状態を直接観られるプロテオミクスには劣る。しかしながら、その技術的な制約により、これまでプロテオミクスの臨床応用はほとんど進んでいない。本プロジェクトで使用する、汎用な装置を開発するための独自の理論と、大量の臨床データの高精度の処理を可能とする独自のアルゴリズムは、臨床現場でのプロテオミクスの使用を実現する。

 本課題では、生命科学、半導体技術、電気通信技術、医療システム、等、複数の学術領域の有機的な連携が必要であり、単にそれぞれの担当部分が高い性能を有するだけでは全体として充分な性能が得られない。扱うデータの内容、そのデータがどのように扱われるのかを専門が異なる参画者のそれぞれが理解して、それに特化した最適のプロトコルを連携模索して開発出来るかがプロジェクトの成否を決める。


 世界中の人が、在宅で体温計を使って検温するような感覚でプロテオミクスデータを日常的にとる未来医療の実現がゴール。

 ①高性能プロテオミクスによる診療法の開発と、②汎用簡便な検査を在宅で可能とするマイクロプロテオミクスチップの開発を並行して進める。

 まず、設定する健診対象(敗血症とスポーツ科学)において①に関する実績つくる。それにより、その対象者が、①による健診を受診したい(使いたい)という雰囲気をつくり、その使用者を広める。①の開発のためには、ビッグデータが必要となるが、ビッグデータを集めるのではなくて、“集まる”ように仕向けることが重要。そうでなければ、良質のデータは収集出来ない。また、そのために必要な各家庭に据えられる、あるいは、携行出来て汎用に使える装置を②で開発する。②の開発が、ビッグデータの集積を後押しする。

 次に、集まったビッグデータにより、最初に設定した健診対象以外にもその対象を(集まったデータの数に応じて)拡げる(データの数が増えるほどに、難易度の高い健診が可能となる)。それにより、本プロジェクトで開発するシステムで自身の健康管理を行いたい人を社会規模でさらに増やし、段階的に保健医療の政策の改革へもつなげる(日常的に集積する人々の健康状態に応じて、保健医療施策を随時、立案し、実施する;流行病への早期対応、等)。

 最終的には、全世界の人が気軽に自身の健康診断を在宅で行えて、それによる未病の処置で医療費を大幅に削減、さらには、高齢者の通院負担を減らした社会を実現する

 試料の調製方法(検体からのタンパク質の抽出、等)の最適化法、1)ハイスループット性能、2)高感度、3)高い再現性、を特徴とする二次元電気泳動法、および、チューンナップした質量分析装置を組み合わせた高精度ハイスループットプロテオミクス解析システムを開発した(日刊工業新聞:2009年11月18日掲載)。これまで、プロテオミクス解析では、その基盤技術である二次元電気泳動に手間ひまがかかることから、多検体の解析にはあまり用いられなかったが、ハイスループット性能と高い再現性を有する本法では多検体の処理が可能となり、これまでに、細胞から組織にいたる様々な対象の解析に用いてきた(下図:解析例の一部)。http://www.nikkan.jp/news/nkx0720091118aaac.html

サブテーマ1:疾患プロテオミクスによる診断、治療法の開発

 これまでのプロテオミクスでは時間がかかり、さらに、多検体を同時に比較することが困難であったので、多数の患者さんを短時間に診なければいけない臨床現場における実用化は難しかった。本研究室では、ハイスループット、高感度、かつ、高い再現性を有する手法の開発に成功したので、この技術を基盤に臨床プロテオミクスの開発を進めている。


 現在は、


 1. 消化器がん血漿プロテオーム解析によるバイオマーカーの探索

                             (京都大学医学部との共同研究)


 2. 熱中症のバイオマーカーの探索

                          (順天堂大学との共同研究)


 3. オオムギ縞萎縮病の予防、診断法の開発

                              (農研機構との共同研究)


 

に関する共同研究を進めている。また、二次元電気泳動画像を用いた機械学習の精度向上法の開発を、それぞれに関して進めている。

サブテーマ2:プロテオミクスチップによる未来型健康社会の実現

 細胞機能を制御し駆動しているのは多種多様な機能を持ったバイオナノマシンである蛋白質である。蛋白質によって制御し駆動されている細胞の性質や状態は、そのシステムを構成している多種多様な蛋白質の種類と量と状態により決まる。従って、蛋白質の種類と量と状態を網羅的かつ俯瞰的に調べること(プロテオミクス)は、細胞(生体)の究極のプロファイリングである。しかしながら、プロテオミクスは、その手技の難しさから、これまで研究においては用いられても、医療や産業において実用化されることはほとんど無かった。

 近年、我々は、プロテオミクスを実用化するために、プロテオミクスの基盤技法である二次元電気泳動技術の(大量の検体を扱うための)ハイスループット化と(微量な検体でも分析を可能とする)高感度化に成功した。この技術を用いてこれまでは扱えなかった分野にプロテオミクスを拡げることを試み、それにも成果が得られたので、現在、さらに適用範囲を拡充するために、簡便に扱えて持ち運べるような小型の装置の開発と大量のデータの自動解析アルゴリズムの開発を進めている。家庭で、簡単に健康診断が出来るシステムを開発し、高額医療費と超高齢化社会の問題を解決することで、未来型健康社会を実現する。